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イオン交換クロマトグラフィーを使いこなそう(7) ~応用編 II ~

クロマトフォーカシングに挑戦しよう

イオン交換イメージ画応用編の第2弾はクロマトフォーカシングがテーマです。クロマトフォーカシングは各タンパク質の等電点(pI)の違いによって、分離する手法です。その高分離能は、非常に性質の似たアイソフォーム同士の分離や、リン酸化や糖修飾など各タンパク質の微小な変化の検出に役立ちます。あらゆる精製法を試したけれどもなかなか思い通りに目的タンパク質の純度が上がらない方。ぜひクロマトフォーカシングにチャレンジしてみてください。

1. クロマトフォーカシングとは

クロマトフォーカシングは、タンパク質がもつ等電点(pI)の差を利用して分離する精製手法です。カラムに専用の両性バッファーを流してカラム内にpH勾配を形成させることで、各タンパク質をpIに応じて分離します(図1)。高いpH~低いpHへと推移するpHグラジエントにしたがって、pIの高いタンパク質から溶出されます。サンプルに含まれる成分数が少ないほど各タンパク質を高い分離能で単離することができ、場合によっては、pIの差が0.02しかない分子を分離することも可能です。

pIが異なる3種タンパク質の分離パターン
図1 クロマトフォーカシングによるタンパク質の分離
(a)滴定曲線: 3種のタンパク質の有効表面電荷とpHの相関図
(b)pIによる分離: カラム内に形成されたpHグラジエントにしたがって、pIの高いタンパク質から順に溶出されます

2. クロマトフォーカシングの分離機構

時間につれて低pH領域がカラム下部まで移行
図2 クロマトフォーカシング用カラムにおけるグラジエント形成
溶出バッファーの送液につれて(左→右)カラム内のpHが低くなる様を示しています
高pH領域 低pH領域

クロマトフォーカシングでは、専用のバッファー(Polybuffer 74Polybuffer 96Pharmalyte 8-10.5) とアミノ基を持ったイオン交換担体(Mono PPBE 118PBE 94)を用います。これらは広いpH範囲全体にわたって均一な緩衝能を持っているため、カラム内に直線的なpHグラジエントを形成させることができます。精製に際しては、目的タンパク質をはじめとしたサンプルのpIを考慮して、そのpH領域に合ったバッファーや担体を選択します。

図2では、クロマトフォーカシングのカラム内に形成されるpHグラジエントの様子を示しました。まず、高いpH に調製された開始バッファーでカラムをあらかじめ平衡化した後(左:a)、低いpH のPolybufferを送液すると担体のアミノ基とタンパク質の滴定が始まります。この現象により溶出バッファーがカラムを流れるにつれてpHが下がり、カラム内に減少方向のpH リニアグラジエントが形成されます(右:b, c, d)。


周囲のpHに応じて解離と結合を繰り返しながら濃縮効果が起きます
図3 クロマトフォーカシングでのタンパク質分子の挙動

タンパク質はカラムに注入されるとすぐに溶出バッファーによって滴定(pH調整)されます。バッファーpHがタンパク質のpIよりも高ければ、そのタンパク質は負に荷電しているのでカラム上部の正電荷をもった解離基に結合します。一方、バッファーpHがpIより低ければ、そのタンパク質は正に荷電しているので、周囲のpHがpIより高くなる領域に達するまで結合せずにバッファーの流れに乗ってカラムを下降します。これが分離の初期段階です(図3)。その後、図2で見られるように徐々にpHのグラジエントが形成され、タンパク質は以下のステップで溶出されます。

  1. 周囲のpHが下がりはじめpI以下になると、結合していたタンパク質が正電荷を持ち、担体から離れる
  2. 解離したタンパク質が溶出バッファーと共に下降しpIよりも高いpH領域に到達すると、負に荷電して再びカラムに結合する
  3. 上記のステップ1, 2を繰り返しながらカラム内をさらに下降し、カラムから溶出される

担体からタンパク質が解離すると溶出バッファーとともにカラムを下降しはじめますが、送液のスピードに対しpHグラジエントはカラム内を遅れて下降します。つまり、後方の分子(カラム上部)の移動速度は前方の分子(カラム下部)よりも速いので、しだいにバンド幅が狭くなります。この濃縮効果が高い分離能を生み出しています。このようにクロマトフォーカシングでは、pHグラジエントの展開に合わせてさまざまなpIのタンパク質がそれぞれの速度でカラムを下降し、担体への結合と溶離を繰り返すことで狭いバンドに濃縮されながら溶出されます。

3. クロマトフォーカシングにおける注意点

クロマトフォーカシングは高分離能をもつ精製手法ですが、通常のイオン交換クロマトグラフィーに比べて深く注意を払うべき点がいくつかあります。ここでは、特に注意が必要な2点について述べます。

サンプル溶解性の確認

クロマトフォーカシングでよく起きる問題は、タンパク質がpI付近で濃縮されて高濃度になった時に析出することです。カラム内でタンパク質が析出すると、背圧の上昇、サンプルの回収量の大幅な低下、カラムの詰まりなどの症状が表れます。したがって、pI付近で非常に析出しやすいタンパク質や、析出後の再溶解が難しいタンパク質は、クロマトフォーカシングでの精製には適していません。また、カラム内で目的タンパク質が一時的に析出している場合では、予測より遅れて溶出する傾向があります。サンプル中に含まれるタンパク質が少なければ少ないほど、析出のリスクは減らすことができます。よって、クロマトフォーカシングに用いるサンプルは、できるだけ精製されていることが望ましいです。

析出を防ぐための対策として、以下のような対処法が挙げられます。

  1. タンパク質があまり高濃度にならないようにサンプル添加量を減らす
  2. グリセロール(1~2%)、betaine(10% w/v)などの添加剤を加えてサンプルの溶解度を改善する
  3. 分離に用いるpHの範囲をタンパク質が析出しない範囲に変更する
  4. クロマトフォーカシングの前に別のクロマトグラフィーで析出するタンパク質を除去する
CO2の影響でpHグラジエントが一部平坦に
図4 開始バッファー中の過剰CO2によって生じたpHグラジエントの乱れ
途中でpHグラジエントが平坦になってしまっています(矢印部分)

pHリニアグラジエントの保持

pHグラジエントの直線性を保つことは、クロマトフォーカシング分離における生命線です。したがって、バッファー調製は注意深く行うことが必要です。中でも溶存CO2は分離に大きく影響するファクターです。開始バッファー中にCO2が存在すると、pHグラジエントの直線性が損なわれて分離が乱れる原因となります。pHの高い溶液で起こるCO2の吸収を最小限にするため、バッファーは窒素かアルゴンガスで置換して保存し、使用前に必ず脱気します。CO2に触れないようにさせるのは限界がありますので、できる限り新しいバッファーを使うことが望ましいです。溶存CO2によってpHグラジエントが乱れた例を図4に示しました。

他にバッファー調製の際に気をつける点としては、基本的なことですがpHとイオン強度を正確に調製することです。過剰量の酸添加を塩基で中和してバッファーpHの再調製を行うことや、精製時とは異なる温度で調製を行うことは、pHやイオン強度の乱れを生みますので避けます。できるだけ最終体積に近い体積でバッファーのpH調製を行うことも重要です。また、サンプルのバッファー成分はできるだけ開始バッファーと同じものを使うようにします。

クロマトフォーカシングによる精製例

下にクロマトフォーカシングを用いた2つの精製例を示します。どちらもクロマトフォーカシングの特性が生かされた例といえます。図5では、pIの異なる4種類のヘモグロビンをサブグループに分離した例です。サブグループAとFのpIの差はわずか“0.05”ですが、ピークは十分に分離されています。このように、pI以外の性質は類似しているアイソフォームのようなタンパク質を高分離能で単離できることがクロマトフォーカシングの長所です。図6では、脱シアル化酵素を作用させたトランスフェリンを分離した例です。このような微小な変化についても、検知することができます。

4つのアイソフォームがシャープなピークで分離されています 酵素処理時間が長くなるにしたがって、シアル酸が脱離したピークパターンに変化
図5 ヘモグロビン変異体のクロマトフォーカシング
pIの差がわずか0.05でもシャープに分離可能です
図6 トランスフェリンの脱シアル化
neuraminidase処理後、0min, 2min, 1h, 5daysのサンプルについて検証

まとめ

クロマトフォーカシングは細かい注意点も多いですが、他の精製手法とは異なる分離機構をもつことが長所です。他の手法では十分に除けない夾雑物であっても効果的に分離できる場合も多く、クロマトフォーカシングを使いこなせるようになれば、タンパク質精製の幅は大きく広がります。本報でご紹介できなかった部分もたくさんございますので、これから試してみたいと思った方は、ぜひハンドブックを参考になさってください。バイオダイレクトラインでも、いつでもご質問お待ちしております。

半年間以上にわたってバイオダイレクトメールに連載してきました、「イオン交換クロマトグラフィーを使いこなそう」は今回でいったん終了です。基本的な知識・利用法から応用までをご紹介してきましたが、これらはイオン交換クロマトグラフィーのほんの一部であり、一般的なことを述べただけです。個々のタンパク質の性質はさまざまですので、これらの知識を生かしつつ、実験目的に最も適した精製条件を見つけ出してください。そして、何かお困りのことがございましたら、ぜひバイオダイレクトラインまでお気軽にご連絡ください。

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