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生化夜話 第11回:なぜイースタンではなくウェスタンだったのか - ウェスタンブロッティング

元はハイブリドーマのスクリーニング法でした

ゲル電気泳動法は、その当時としては画期的な方法で、生化学研究の進展に大きく貢献しました。しかし分析対象が、ウイルスやファージのタンパク質などの比較的単純な系から、真核細胞などの複雑な系に移ってくると、その当時の技術では分解能が不足していることがわかってきました。

そこで、分解能向上を目指して技術開発が行われ、例えば二次元電気泳動のような分離能力の高い手法が開発されました。これらの新技術の導入により、たいへんな数のタンパク質やペプチドを分離できるようになりました。

しかし、これで「めでたしめでたし」と話は終わりませんでした。新技術によって研究対象となるタンパク質やペプチドのバンドやスポットは飛躍的に増大したのですが、今度は、そうしたスポットやバンドと既知の生物学的機能とをどうやって結びつけるのか、という問題が浮上しました。中でも、SDS-PAGEのようにタンパク質を変性させてしまう手法の場合、物質としては残っていてもタンパク質の機能そのものは失われてしまうので、問題は深刻でした。

ここでも、研究者たちは創意工夫で問題を乗り越え、ゲル内の特定の酵素や抗原、ホルモンレセプターなどを同定できる手法がいくつも開発されました。ただし、そうした手法の多くは、電気泳動後もタンパク質の機能を維持できる、変性したタンパク質を後で復元できる、または、何か検出しやすいリガンドを共有結合できる、といった前提条件を満たしていなければ使えないという制約がありました。また、長時間のインキュベーションや多数の洗浄操作が必要とされることが多く、時間がかかる上にゲルを破損してしまう危険がつきまといました。もう一つ困ったことに、たいていの場合、大量の試薬が必要で、ランニングコストが高いのも問題でした。

目的はハイブリドーマのスクリーニング

スイスにあるフリードリヒ・ミーシェル研究所に、ハリー・トービンというポスドクがいました。彼の仕事は、真核生物のリボソームタンパク質に対する抗体をつくることでした。当初は、ヤギを使う昔ながらの方法で作業していましたが、やがてロシュの研究所から来ていた同僚に紹介された、ハイブリドーマを使う方法に切り替えました。トービンによると「可愛らしいヤギに注射をしたり血を抜いたりしなくてよくなったのでハッピーだった」そうです。

ハイブリドーマ技術を導入したおかげで、あまり純度の高くない試料を使っても、種類の多いリボソームタンパク質のそれぞれに対して特異的な抗体を「理屈の上では」つくれるようになりました。しかし、トービンはここである問題に直面します。リボソームタンパク質はリボソームから分離すると機能を失うため、それぞれの機能で同定することはできません。そこで、トービンたちはそれぞれのタンパク質を二次元電気泳動ゲル上のスポットの位置で同定していました。こうした事情から、ハイブリドーマの多数のクローンから、ゲル上のあるスポットに対する抗体を産生するクローンをスクリーニングしなければならなくなったのですが、二次元電気泳動のゲルは厚みがあり、抗体がゲル中のタンパク質に容易に結合するとはトービンには思えませんでした。

何か手はないものかと思案していたトービンは、サザンが開発したDNAのブロッティングにヒントを得ます。リボソームタンパク質の研究中の経験からすると、ポリペプチドもDNAと同様にニトロセルロースメンブレンに容易に結合するように思えました。

ありあわせの材料でやってみました

トービンは、ブロッティング法を応用して電気泳動的にゲルからニトロセルロースメンブレンに転写しようと考えて、使えそうなものがないかと研究室の中を見回しました。トービンが目をつけたのは電気泳動ゲルの脱色装置でした。装置はゲルの染色に使っていたクマシーブルーでひどく汚れており、トービンはまず脱色装置の掃除からはじめることになりました(きっと、ラボの皆さんに感謝されたことでしょう)。

トービンが、ありあわせの材料で済ませたものがもう1つあります。それはゲルとメンブレンを挟むフレームです。細胞を扱うラボならどこにでもあるプラスチックゴミ、ピペットチップのトレーを使ったのでした。実際、1979年に発表されたトービンの論文中にあるMaterials and methodsには、材料として「Medical Laboratory Automation社製ディスポマイクロピペットのトレー」が記載されています。

こうして、ゲル電気泳動後にメンブレンに転写して抗体を結合させる、という今日のウェスタンブロッティングの基本形が、世に送り出されたのが1979年でした。ここを起点に考えると、2009年はウェスタンブロッティング30周年の記念すべき年ということになります。

なお、この時期に他のグループもゲルのレプリカをつくる方法を発表してはいますが、その中でもトービンの方法がたいへんシンプルであったため人気を呼び、それから10年弱の間に7000以上の論文で引用されることになりました。

言葉遊びはほどほどに

スイスでトービンがハイブリドーマのスクリーニング法で頭を悩ませていた頃、アメリカにもやはりハイブリドーマのスクリーニング法で悩む研究者がいました。

ハッチンソンがんセンターのニール・バーネットのメインテーマは、レトロウイルスのオルタナティブスプライシングでしたが、所属するラボで行われていたMuLVの構造タンパク質をモノクローナル抗体でマッピングする仕事にも手を貸していました。ここでも、やはりエピトープ特異的なハイブリドーマをどうやってスクリーニングするかが問題になっていました。

SDS-PAGEとラジオイムノアッセイを組み合せて何かできないかと考えていたようですが、ゲル電気泳動で分離したタンパク質を可視化する方法のところで手詰まりになっていました。

バーネットは、レトロウイルスのmRNAを調べるためにノーザンブロッティングを行っていました。この経験がヒントになり、トービンと同様のブロッティング法を完成させました。

バーネットは、上司のボブ・ノウィンスキと相談し、すでに定着しつつあったサザンブロッティング、ノーザンブロッティングという方角にちなんだ名称にならい、自分のブロッティング法にも方角にちなんだ名前を付けることにしました。サザンとノーザンが使われており、残る方角は東か西ですが、彼らのラボのあるシアトルはアメリカ本土の西の端といってよい場所です。このラボの位置から西を選択し、最終的にウェスタンブロッティングという名前になりました(実は、ノーザンブロッティングの開発者オールウィンがいたスタンフォードの方が、シアトルよりも微妙に西寄りなのではありますが)。

しかし、バーネットがウェスタンブロッティングの論文を提出するよりも一足早く、トービンが書いたタンパク質ブロッティングの論文が発表されてしまいました。トービンの論文はウレア-ポリアクリルアミドゲルであるのに対して、バーネットの方法はもっと応用範囲の広いSDS-ポリアクリルアミドゲルを使っており特異性も高いので大丈夫だろうと、Analytical Biochemistry誌に論文を投稿しますが、審査員の評価は芳しくなく見事にリジェクト。特に、"ウェスタンブロッティング"という奇抜なネーミングが審査員のお気に召さなかったようです。

傷心のバーネットは、その後ソーク研究所に移籍して心機一転、新しい環境で仕事を始めますが、時々かかってくる電話に悩まされるようになりました。その電話の内容はというと、バーネットのウェスタンブロッティングの方法のコピーが手元にあるが読み取れない、というものでした。

バーネットは投稿した論文の見本刷りを元同僚に送っていたのですが、その見本刷りのコピーが元同僚の周囲に広まり、さらにそのコピーから孫コピーがつくられ、とバーネットの知らないところでコピーが繰り返されていました。その中には多数のコピーを経たせいで判読困難な状態のものもあり、そうした状態の悪いコピーを受け取った研究者が、著者であるバーネットに問い合せてきたのでした。

説明を求める電話はどんどん増えエンドレスな観を呈してきたところで、Analytical Biochemistry誌に催促してようやく1981年にウェスタンブロッティングという名前を冠した論文が掲載されたのでした。

ただし、方角にちなんだ名前をつけることには否定的な研究者もいたようで、後にタンパク質のブロッティング法のレビューを書いたイェール大のゲルショニは、「中東ブロッティング」のような名前を付けるのを前もって防ぐために、方角にちなんだ名前で呼ぶのは止めるよう提言しています(この提言に従う研究者は、多くはなかったのでしょうが)。

参考文献

  1. Towbin H., Staehelin T. and Gordon J., Electrophoretic transfer of proteins from polyacrylamide gels to nitrocellulose sheets: Procedure and some applications, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 76, no. 9, 4350-4354 (1979)
  2. Burnette W. N., "Western Blotting": Electrophoretic Transfer of Proteins from Sodium Dodecyl Sulfate-Polyacrylamide Gels to Unmodified Nitrocellulose and Radiographic Detection with Antibody and Radioiodinated Protein A, Analytical Biochemistry, vol. 112, 195-203 (1981)
  3. Gershoni J. M. and Palade G., Protein Blotting: Principles and Applications, Analytical Biochemistry, vol. 131, 1-15 (1983)
  4. Towbin H., Citation Classic, Current Contents/Life Science, vol. 31, no. 11, 19 (1988)
  5. Burnette W. N., Citation Classic, Current Contents, no. 44, 8 (1991)

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