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生化夜話 第50回 畑と海からゲルろ過担体 - Sephadexから高度架橋アガロース・デキストラン複合担体へ

挿絵:小さいビーズの迷路は・・・

電気泳動の実用化でノーベル化学賞を受賞し、ウプサラ大学生化学研究所の所長を務めたアルヌ・ウィルヘルム・ティセリウスの回想によると、クロマトグラフィー担体に用いられているデキストランは、ビーツ(サトウダイコンの一種)抽出物に含まれる夾雑物として見つかったそうです。
そのデキストランが脚光を浴びるきっかけになったのは、1959年、イェルケル・ポラートとペル・フローディンが発表したゲルろ過の論文でした。その論文では、デキストランを架橋したSephadexが用いられていました。Sephadexは選択性が高く分離能がよいため、長期にわたってゲルろ過の担体として大活躍しました。

しかし、日進月歩の研究の世界のことです、これで「めでたしめでたし」と昔話のようにはいきませんでした。

Sephadexのポアサイズは架橋反応を行う際のデキストランと架橋剤の濃度によって決まります。そのため、タンパク質のような大きな分子を分離できるポアサイズにしようとすると、デキストランの濃度を下げる必要があり、できあがる担体は比較的柔らかいものになってしまいます。そうした柔らかい担体は変形しやすいので、流速を上げにくく、ゲルろ過は時間のかかる作業でした。
担体として架橋したポリアクリルアミドも考案されましたが、柔らかくて変形しやすいという問題は同様でした。

未知なる担体を寒天に求めて - アガロース担体

クロマトグラフィー担体のマトリックスとして特に人気があるものの1つが寒天から精製されたアガロースです。アガロースはもともと日本の荒木長次が発見し、ウプサラ大学のシュテラン・ヤティーンが大量に精製する方法を考案しました。ヤティーンが新しい精製法で得たアガロースをゲル電気泳動に使ったのが1962年のことで、その2年後、1964年にはアガロースでビーズ状の担体をつくる方法が開発されました。アガロース担体は、ファルマシアによって製品化され、Sepharoseとして1967年に発売されました。アガロース担体はデキストランやポリアクリルアミドよりも剛性が高く、流速を上げることができました。また、ポアサイズも大きいので、タンパク質だけでなく、ウイルスのような粒子の精製もできました。

アガロースは、化学的に不活性であり、pH安定性にも優れている上に、 誘導体をつくったり架橋させたりするのが容易であることから、ゲルろ過、イオン交換、アフィニティー、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの担体に最もよく使われるマトリックスとなりました。

もっと硬さを - 高剛性アガロース担体

1980年代はじめ、ヤティーンはそれまで低圧のクロマトグラフィーで使われていたアガロース担体を、HPLC でも使えるようにできないかと試みました。ヤティーンは架橋したアガロースの粒子径を2-10 µmまで小さくした上で、剛性を高めることに成功しました。
しかし、その当時のファルマシアはその担体に興味を示さず、ヤティーンは悔しい思いをすることになりました。

ヤティーンは、ファルマシアが興味を示さなかったとだけ書いていますが、その当時の状況からある程度理由は推測できます。
この時期、トロンヘイム大学のジョン・ユーゲルスタットとファルマシアの共同研究による単分散系親水性ポリマービーズであるMono Beadsの開発がすすんでおり、粒子径が小さい上に剛性が高く(同じく社内で開発が佳境を迎えていたタンパク質精製システムFPLCとセットで使うのがファルマシアの主目的ではありましたが)高圧・高流速でも使える担体なら目処がついていたのです。
おそらく、このMono Beadsが念頭にあり、ファルマシアはヤティーンの架橋アガロースビーズに関心を示さなかったのでしょう。

しかし、ゲルろ過に限ってみればポリマーの塊であるMono Beadsは不向きで、ファルマシアのゲルろ過担体は昔ながらのSephadexとSepharoseでした。この時期、ゲルろ過用のさまざまな担体が市場に登場していました。その多くは、高流速を実現するために、粒子径の小さなビーズを用いたもので、中には分子量が大きなタンパク質の分離が悪くなってしまうものもありました。

そこで、ファルマシアの開発グループは架橋したアガロースでSepharoseよりも粒子径の小さい担体を開発しました。彼らはSepharoseよりも流速を上げられる粒子径30 µmのアガロース担体を開発し、Superose 6Bとして発売しました。それに続いて、ファルマシアはウプサラ大学のヤン=クリスター・ヤンソンとの共同研究で架橋反応を改良しました。ジビニルスルホンによるアガロースの架橋反応を1970年代にポラートが開発し、剛性の高いアガロースビーズをつくるためにしばしば用いられていましたが、化学的安定性に欠けるところがありました。
ファルマシアの開発グループとヤンソンは架橋反応を2段階に分けて、1段階目では非プロトン性の溶媒中で、長鎖の二価または多価のエポキシドと反応させ、続いて 部分的に架橋したゲルを水性溶媒中で短鎖の二価の架橋剤と反応させ、化学的安定性を高める方法を考案しました。この方法でつくった6%と12%のアガロースビーズはSuperose 6HRと12HRとして製品化されました。

合わせて一本 - 複合材アガロース担体Superdex

1990年にファルマシアが発売したSuperdexはマトリックスにアガロースを使ったアガロース・デキストラン複合ゲルでした。複数の素材からなる複合ゲルは、Superdexが初めてというわけではなく、ファルマシアの既存製品であるSephacrylも架橋したアリルデキストランとN,N-メチレンビスアクリルアミドでできていました。Superdexの優れていた点は、

  • アガロースのマトリックスに共有結合したデキストランで埋めるので、ゲルろ過担体の選択性に大きく影響するポアサイズを自由にコントロールできる
  • デキストランは多糖の表面を形成し、固定した多糖溶液、つまりSephadexと同様の挙動を示す

というものでした。これにより、選択性の高さで好評を博していたSephadexと同様の選択性と架橋アガロースによる剛性を両立できました。
Superdexは、既存の人気製品Sephadex G-75およびG-200に分画範囲を近づけた製品が開発され、それぞれSuperdex 75、Superdex 200と命名されました。

Superdexについて表面的なところを眺めると、このように、アガロースでできたマトリックスに狙ってデキストランを結合させたかのような、スマートな話に思えます。しかし、この技術を開発した際の論文を読むと、前述の効用を狙ってデキストランを結合させたかどうかについて、疑問がわいてきます。

ラッキーな副産物?

Superdexの基礎技術、アガロースのマトリックスにデキストランを共有結合させたビーズを開発したのは、ヤティーンでした。
前述のようにヤティーンがHPLC用に開発したアガロースビーズは商品化されませんでしたが、その後もヤティーンは新たなHPLC用アガロース担体を模索し続けました。HPLCでも使える剛性の高いアガロースビーズをつくるための架橋剤として、ヤティーンもジビニルスルホンを採用しようとしました。しかし、ヤティーンが試したところ、ジビニルスルホンで架橋したアガロースビーズには以下の欠点がありました。

  • 架橋反応の再現性が低く(ビーズの剛性の度合いが異なる)最大流速が不安定
  • 排除体積のマーカーに使っていたBlue Dextranが不可逆的に吸着
  • いくつかのモデルタンパク質、例えばヘモグロビンやアルブミンも吸着

ヤティーンはこうした問題の原因究明と条件の検討に努め、次の解決策を見つけました。

  • pH 11.5以上、NaBH4存在下で架橋反応を行うと結果が安定する
  • 架橋反応後もフリーのジビニルスルホン(片側がアガロースに結合して、もう一方が未反応)が残っているのが、他の物質と共有結合させてしまえば吸着を防げる

そしてジビニルスルホンと反応させる相手として使われたのがD-マンニトールとデキストランでした。

ヤティーンは、その論文の中でD- マンニトールとデキストランのそれぞれについて、ゲルろ過担体としての特性を調べています。しかし、ポアサイズのコントロールやSephadexに近い挙動を狙っているのであれば、そもそも低分子のD-マンニトールを試す必要はないのではないか、吸着を抑えるのが目的で、それ以外の効果はオマケだったのではないか、と筆者は勘ぐってしまいます。

バイオ医薬品製造からラボへ

バイオ医薬品の市場規模拡大に伴い、培養細胞を用いたタンパク質の生産も大規模化しました。その結果、バイオ医薬品メーカーはタンパク質の精製も大規模かつ高速に行う必要に迫られました。
バイオ医薬品としてのタンパク質の精製には、もちろんクロマトグラフィーが重要な役割を果たしており、スループットと結合容量の双方を高いレベルで両立させた担体が求められるようになりました。

バイオ医薬品メーカーにクロマトグラフィー担体を供給していたアマシャム・ファルマシア・バイオテク(1997 年のアマシャムとの合併後の社名)でも、そうした需要に応える担体の開発がすすめられました。

新しい担体の候補はいろいろありました。無機材料ではシリカ、ガラス、ハイドロキシアパタイト、セラミック、カーボン、合成ポリマーではスチレン/ジビニルベンゼン、アクリルアミド、多糖ではデキストラン、セルロース、アガロースと多様な選択肢から選ばれたのはアガロースでした。
無機化合物の多くは化学的安定性がバイオ医薬品の精製プロセスに求められるレベルには足りず、合成ポリマーは疎水性の問題がありました(疎水性の担体に触れることでタンパク質が変性してしまうおそれがあります)。
一方、アガロースは化学的に不活性かつ安定で、親水性ですので、無機化合物や合成ポリマーの抱える問題とは無縁でした。さらに、アガロースは安全な物質だと考えられているので、アガロースを使った精製プロセスは当局に比較的認められやすいという点も、バイオ医薬品精製向けの素材選択では重要でした。

こうして開発がはじまり、High Flowアガロースと称する高剛性アガロースビーズ製造技術に結実しました。この技術を基にバイオ医薬品精製向けの担体が用途別に開発され、抗体のような大きなタンパク質を精製するためのMabSelectシリーズ、高速低圧でのタンパク質精製を目指したCaptoシリーズの2 種類が世に出ることになりました。

もっと分離能を - Superdex 200 Increase

1990年の発売以来、好評を博してきたSuperdexシリーズにも、さらなる性能向上を求める声が寄せられるようになりました。特に、要望が多かったのは、分離能とスピードでした。

Superdexは研究やバイオ医薬品の精製プロセス開発でスクリーニングによく使われていました。タンパク質を結晶化する条件検討の際に、さまざまな条件下でのアグリゲートのチェックや、バイオ医薬品精製プロセス開発中の抗体のアグリゲートやダイマーのチェックなどで、ゲルろ過が用いられていました。Sephadexでは数時間かかっていたものが、Superdexでは1時間程度で済むようになってはいましたが、ルーチンワークでゲルろ過を何度も行う現場からは、より一層のスピードアップを求める声が寄せられました。

分離能向上が常に重要な課題であることは、言うまでもありません。分離能が高ければ、溶出の際によりシャープなピークが得られるようになりますので、例えば

  • 抗体のモノマーとダイマーの区別が明確になる
  • 分取の際のフラクションの数が少なくなるので、特に量が少ないタンパク質の場合に有利(タンパク質がより少ない緩衝液に含まれることになるので、濃度が上昇)

こうした声に応えるために、マトリックスにはバイオ医薬品精製向けに実績があるHigh Flowアガロースを用いた新しいSuperdexの開発がはじまりました。
理論上、流速を上げると、分離能は下がります。それでも、スピードと分離能を両立することを目指して、条件検討が繰り返され、最終的に剛性が高く、粒子径の小さい(Superdex 200 の13 µmに対して8.6 µm)担体が完成しました。
この新しいSuperdex は、Superdex 200 Increase と命名され、2013 年に発売されました。

なお、初代Superdexの基礎技術開発に貢献したウプサラ大学のヤティーンは、最近はHPLCとキャピラリー電気泳動の開発に集中しており、Superdex 200 Increaseの開発はGEの社内だけでのプロジェクトでした。

参考文献

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