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Location:ホーム実験手法別製品・技術情報タンパク質サンプル調製・前処理

第1章
タンパク質サンプル調製の概要(1)

はじめに

大半のタンパク質サンプルは、採取後にさらに調製する必要があります。この調製によるサンプルの品質はタンパク質分析を成功させるためにきわめて重要です。サンプル調製に最大限の注意を払うことが、最良の分析結果を得るための絶対条件となります。このハンドブックの目的は、タンパク質分析のきわめて重要な出発点であるサンプル調製をできる限り明確かつ効率的なプロセスにするための情報や手引きを提供することです。

タンパク質のサンプル調製とは

タンパク質のサンプル調製という用語は人によって解釈が異なることがあります。厳密な定義が本当に意味を持つのはあるひとつの規定済みのワークフローの範囲内に限られます。例えば、クロマトグラフィーシステムは、その使用目的がプロテオミクス研究においてタンパク質分画を行うことであるならば、サンプル調製の一部とみなされますが、単一のタンパク質の分離とキャラクタリゼーションを目的とするのであればサンプル調製の一部とはみなしません。このハンドブックでは、「ワークフローの主な目的が、ある種のタンパク質分析である場合、分析を除くすべての操作がサンプル調製とみなされる」という大まかな定義を採用します。

タンパク質のサンプル調製が必要とされる背景

分析を目的とした質の高い小スケールのタンパク質調製は多くの研究者が望んでいます。タンパク質分析がますます複雑になり感度が向上するにしたがい、ハイスループットの手法の必要性も高まってきました。以下の分野に携わる研究者にとって、タンパク質のサンプル調製はきわめて重要なポイントとなります。

  • プロテオミクス
  • ファンクショナルゲノミクス
  • 臨床試験(例えば、「治療」の前と後でタンパク質サンプルを比較)
  • 発現差異解析
  • タンパク質発現局在研究(例えば、さまざまな種類の細胞におけるタンパク質の発現と局在性の研究)
  • 構造解析
  • 機能解析

適正なサンプル調製で対処すべき課題

改善された新たな分析手法が次々と生み出されていますが、依然として基礎的な課題の多くに対処するためには適正なサンプル調製が欠かせません。その主な課題を以下に説明します。

タンパク質の複雑性とダイナミックレンジ

生物サンプルに含まれるタンパク質はきわめて複雑で、翻訳後修飾(PTMs)によりこの複雑性はさらに高くなります。また、生物サンプル中の存在量は、タンパク質種ごとに大きく異なることがあります。例えば、出芽酵母の細胞1個当りのタンパク質の存在量には、タンパク質の種類によって分子数50個未満から106個以上までの幅があります(1)。血清には60~80 mg/mlのタンパク質が含まれていますが、そのおよそ半分は血清アルブミン、最大で1/4がγ-グロブリンです。生物サンプルから得た全タンパク質抽出液に含まれるタンパク質種は複雑性が高くダイナミックレンジが大きいことから、MSまたは電気泳動に基づく網羅的な分析手順ではこのような抽出液に含まれるすべてのタンパク質種を検出することは困難です(図1.1)。

図1.1
図1.1 二次元ゲル電気泳動と網羅的なMS手法では、生物サンプルから得た全タンパク質抽出液中に存在するタンパク質のごく一部しか検出できません。図の出典:文献2。

ダイナミックレンジとタンパク質の複雑性の概要をサンプル供給源別に表1.1に示します。一般に、電気泳動またはMSベースの手法の分析性能はサンプルの複雑性が高くなりダイナミックレンジが大きくなるに従い低下します。実際、分析ステップに供するサンプルの複雑性とダイナミックレンジを低くするサンプル調製ストラテジーを使用しなければ、存在量が中程度のタンパク質種であっても反復分析で再現性を持って検出または定量することはむずかしいでしょう。特異性がもっとも高いバイオマーカーは、プロテオーム(一生物の全タンパク質の完全セット)の中に存在すると考えられていますが、プロテオーム中の低存在量タンパク質はその標的に的を絞った方法で検出性を改善しなければ、検出することはほぼ不可能です。その主な理由は以下の3つです。

  1. 生物サンプルと分析手法のダイナミックレンジが合わない。多くの生物サンプルではダイナミックレンジはおよそ5から12の範囲ですが(表1.1)、電気泳動とMSをベースとする網羅的分析手法で現在扱えるダイナミックレンジはおよそ2から3程度に過ぎません(表1.5、この章で後述します)。
  2. 生物サンプルの複雑性に対応できる分析手法がない。ダイナミックレンジを大幅に低減できたとしても、現在の分析手法ではサンプルのきわめて高い複雑性には対応できません。存在するタンパク質の数が増えるに従い、アプライできる個々のタンパク質の量は少なくなります。さらに、二次元電気泳動では存在するすべてのタンパク質種を分離することはできません。また、液体クロマトグラフィー(LC)-MS法(LC-MS/MS)で使用される質量分析計は、イオン化抑制効果が生じ、分離能が不十分で、MS/MSスキャンの速度に限界があるという欠点があります(MSモードでペプチドが分離・検出されても、クロマトグラムの各ポイントに存在するすべてのペプチドイオンについてMS/MSスキャンを行う十分な時間がありません)。
  3. 分析手法の感度が不十分。ダイナミックレンジと複雑度の問題は別としても、タンパク質の濃度を何らかの方法で操作しなければ、現在のMS手法や二次元ゲル電気泳動手法の感度では、プロテオームに含まれる低存在量タンパク質(ng/ml単位を下回る濃度、表1.5参照)を分析できません。

表1.1 サンプル供給源のダイナミックレンジと複雑度の概要(1-5)

由来 ダイナッミックレンジ タンパク質種数 コメント
バクテリア ~105 ~103 タンパク質組成は細菌種と培養条件によって異なります。  
培養用動物細胞 ~105-6 ~104 培養中の生物学的状態や細胞の種類の管理が不十分であると、複雑性がさらに大きくなります。
組織 Increased compared with cell culture samples due to the presence of multiple cell types Increased compared with cell culture samples due to the presence of multiple cell types サンプルの特徴は、個々の組織によって、またその組織からのサンプル採取操作の正確さによって大きく異なってきます。一般に、分析の目的を念頭に置きつつ、単離組織の不均一性をできる限り低く抑えることが重要です。
血漿プラズマ ~1010-12 ~106 血液は体内の他のすべての組織を灌流し、細胞の大半はタンパク質を循環血中に漏出または分泌すると考えられています。したがって、血漿プロテオームはもっとも複雑なプロテオームであり、体内のすべての器官と組織の健康状態を反映すると考えられます。そのため、バイオマーカーの開発にとってきわめて重要です。
その他血液など Lower than plasma Lower than plasma バイオマーカーの最終目標は血液検査への使用であるものの、血漿は複雑であるため、その開発には他の体液が使用されることが多くなっています。このような体液もきわめて複雑であることには変わりありませんが、それでもサンプル供給源として使用される理由は、特定の疾患に特異的な多くのバイオマーカーは病変が生じた組織で局所的に生じ、病変からの距離が増すにつれ濃度が低下し、血液中に夾雑物があるとこの濃度勾配が顕著に低下するためです。近位体液という用語は、病変部位に近いか直接接触している体液と定義されています(6)。

標的を絞った方法で生物サンプル中のタンパク質のダイナミックレンジを低減できれば、タンパク質の検出性が改善されます。しかし、原則として、存在するタンパク質の大半を検出できるのはアフィニティーベースの方法のみです。抗体(または他のアフィニティー結合物質)が存在しない場合、標的を絞った方法を使用するには検出性改善を目的としたサンプル調製の操作が不可欠です。

タンパク質を分解から保護する

タンパク質またはプロテオームのin vivo状態を忠実に反映する情報として、信頼できる分析結果を、組織ベースおよび細胞ベースのサンプルから確実に得るためには、プロテアーゼや他のタンパク質修飾酵素の作用からタンパク質を保護することを検討する必要があります。酵素の制御が不完全であると、タンパク質集団に関するきわめて重要な情報が損なわれるか歪みが生じ、サンプル間の大きなばらつきや誤った結論につながることがあります。原因となる酵素は一般にシグナル伝達や制御されたタンパク質分解に関する細胞内のシグナル経路に関与することから、大半の体液では有害な酵素活性はあまり大きな問題とはなりませんが、例外もあります。血液凝固カスケードはその代表例です。血漿サンプルまたは血清サンプルを作製する場合には十分制御された方法でこのカスケードを避けるかあるいは活性化する必要があります。

上記の酵素系は正常な細胞過程の一部を構成しますが、サンプル調製に欠かせない以下の2つのステップにより、これらの酵素系が有害な活性を示すようになるため、サンプル採取前あるいは中のプロテオームに歪みが生じます。

  1. サンプル採取(サンプリング)ステップでは、組織サンプルが自然の環境から引き離されるため、組織の恒常性に重大な乱れが生じます。これが分解メディエーターの放出を引き起こし、PTMsに関与するさまざまなプロテアーゼや酵素の活性上昇につながります。培養細胞のサンプリングでも同様のストレス反応が活性化されることがあります。
  2. in vivo条件下では、細胞タンパク質の多くがタンパク質分解酵素と隔離されています。タンパク質抽出中に細胞および組織の構造が破壊されると、タンパク質が酵素と接触して分解または修飾を受けやすくなることから、in vivo状態の歪みが促進されます。

制御を行わなければ、サンプル調製ワークフロー全体にタンパク質の分解とタンパク質修飾が生じる可能性が存在することになります。しかも、サンプル供給源の種類による大きなばらつきが予測されます。最近、有害な酵素作用はこれまでに考えられていたよりも迅速に生じる可能性があることが示されています。サンプリングから3分後にはすでに広範なタンパク質分解が生じていることが証明されており、脳組織では死後数分以内に数種類のPTMsの濃度が大きく変化します(7)。

タンパク質の網羅的抽出

細胞ベースおよび組織ベースのサンプル供給源は、タンパク質の不均一性が大きく、干渉を引き起こす夾雑物が含まれるため、網羅的抽出(すべてのタンパク質の遊離と可溶化を同時に行うこと)を行うのはきわめて困難です。タンパク質がメンブレンに吸着して他のタンパク質や核酸と複合体を形成すると、抽出プロセスが大きく妨害されます。当然の結果として、抽出されたタンパク質集団はin vivoのタンパク質集団と比較して多少歪んだものとなる可能性が高くなります。抽出プロトコールを最適化してこのような影響を最小限に抑えることは難しい課題であり、一般にサンプル供給源や分析目的が新たに出現するたびに最適化を繰り返す必要があります。

非タンパク質夾雑物の完全な除去

塩、核酸、脂質、多糖、フェノールなどの夾雑物の濃度はサンプル供給源によって大きく異なります(8)。夾雑物が存在すると、サンプル調製手法と分析手法の性能がともに大きく低下する可能性があります。その他の物質、例えばワークフローの一部を改善するために添加される界面活性剤なども、しばしば後続のステップを妨害します。

サンプル調製によるその他のアーチファクトの導入

酵素的分解および不完全な抽出に加え、以下に示すようなプロセスも全体的な感度を低下させ本来のタンパク質分布を歪めるおそれがあります。

  • タンパク質溶液の物理的または化学的特性(温度、pH、塩または界面活性剤の濃度など)の意図的または非意図的な変化による沈殿または凝集
  • サンプルバイアル、液体吸引チップまたは固相操作器具(クロマトグラフィー担体、フィルター、メンブレン、磁気ビーズなど)への曝露による表面への非特異的吸着
  • サンプルの取り扱いに誘発されるタンパク質の化学的修飾(酸化など)の発生

このような影響は、ワークフローに含まれる操作の数と複雑さが増すにつれて大きくなる傾向があります。

 

タンパク質サンプル調製ハンドブック目次1章 References 略号と用語、記号解説


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