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生化夜話 第9回:Monoは何モノ? - イオン交換クロマトグラフィー

不均一だと詰まるんです

最初は市販品で

その昔、タンパク質精製といえば電気泳動で、という時代がありました。「第3回:アガロースゲルとアクリルアミドゲル、先に開発されたのは?」にある通り、アクリルアミドゲルとアガロースゲルの開発は1950年代末から1960年代はじめのできごとですので、1940年代から1950年代前半のゲル電気泳動の担体はというとデンプンでした。デンプンゲルによる電気泳動は時間がかかる上に、純度の点でもあまり満足なものではなく、また大量精製にも向いていないという問題がありました。

そんな不満だらけのタンパク質精製実験を何とかできないかと、何人かの研究者が精製手法の開発に取り組みました。彼らはシトクロムcの等電点が高いことに注目し、これをサンプルとした精製手法の研究を進めましたが、不純物が多い上に鉄分が多くなる(シトクロムがヘム鉄を含有していることを考えると、タンパク質が壊れている?)問題を克服できず、開発された手法のほとんどは使い物になりませんでした。

そんな中、スウェーデンのMedical Nobel Instituteでシトクロムcの研究をしていたパレウスたちは、工夫を凝らしこの問題を解決したのです。

パレウスの工夫はというと、陽イオン交換樹脂を使った「イオン交換」を原理とした手法でした。生化学用のイオン交換担体ができる前のことですから、彼らは市販のイオン交換樹脂Amberlite IRC-50を砕いてカラムに詰めて、イオン交換クロマトグラフィーによるシトクロムcの精製を行ったのでした。筆者が調べた限りでは、パレウスたちがその結果を発表した1950年の論文が、イオン交換クロマトグラフィーでまともにタンパク質を精製できた最初の例ではないかと思われます。

続いて1952年、ロックフェラー研究所のハースたちがパレウスと同じAmberlite IRC-50に加えて、Dowex 2という、これまた市販のイオン交換樹脂でつくったカラムを使い、まず各種のアミノ酸を分離しました。また、同じく1952年に、Amberlite IRC-50のカラムを使って、ウシ膵臓のリボヌクレアーゼを分離しています。

さらに1952年には、同じグループがAmberlite IRC-50でリゾチームの分離に成功しています。

これらのイオン交換樹脂を担体としたイオン交換クロマトグラフィーは、あまり大きなタンパク質の精製には向いていませんでした。後にセルロースを使ったイオン交換担体を開発したNIHのソバーは、Dowex 2でヘモグロビンの精製を試した結果、まったくだめというわけではないものの、結合容量が小さすぎて実用的なものではないと評価しています。

ただし、Dowex 2に関しては、ティセリウスの弟子であるウプサラ大学のボーマンが条件検討を行い、ソバーたちのセルロースを使った担体に劣らずさまざまなタンパク質を分離できることを示していますので、条件やアイディア次第(つまり使用者の力量に依存する)といった部分もあったのかもしれません。

「専用」は素敵

NIHのソバーとピーターソンは、それまで市販の弱イオン交換樹脂で精製しようとしたのが、そもそも間違いであると考えました。市販のイオン交換樹脂は、空隙率が低すぎる上に、疎水性も高いので、小さな塩基性タンパク質に用途が限られてしまいます。そこで、彼らはタンパク質の精製に適した専用のイオン交換担体を開発することにしました。

アルファセルロースをクロロ酢酸で処理してつくった陽イオン交換体は、CM-cellulose、2-クロロ-N,N-ジエチルエチルアミン処理してつくった陰イオン交換体はDEAE-cellulose(当初は買ってきたセルロースの製品名からDEAE-Polycelとも書かれていました)と命名し、リボヌクレアーゼなどの酵素の分離結果を1954年に発表しています。ちなみに、CMはカルボキシメチル、DEAEはジエチルアミノエチルの略語です。

セルロースでつくったタンパク質精製専用のイオン交換担体の性能は(その当時の基準では)良好で、分離能は電気泳動より高く、親水性が高いためさまざまなタンパク質の精製に使えました。欠点はというと、精製に時間がかかることで、ソバーたちは1955年に血清のタンパク質を分離した結果を報告していますが、その論文で精製に8~9日かかると書いています。

北欧の国から

1959年に発表したゲルろ過の開発で有名なウプサラ大学のポラート(第4回:きっかけは電気泳動装置のスイッチの入れ忘れ)ですが、実はソバーたちの成果に触発されて、TEAE(トリエチルアミノエチル)-celluloseやSE(スルホエチル)-celluloseを開発し、1957年に発表しています。

また、ポラートの相棒でありファルマシアでSephadexの開発にあたっていたフローディンもイオン交換担体の開発には興味をもっており、1958年にはまだ開発中のSephadexをベースにしたイオン交換担体の開発計画を開始しました。開発は順調に進んだらしく、ゲルろ過の発表と同じ1959年には、イオン交換用SephadexであるCM-SephadexとDEAE-Sephadexに関する特許を出願しました。

最初に市販されたイオン交換用SephadexはDEAE-Sephadex A-25とA-50であり、1960年に発売されました。ちなみに、A-25、A-50のAは陰イオン(anion)の頭文字で、25と50はベースとなった担体がSephadex G-25とG-50であることを示しています。

続いて1961年、CM-Sephadex C-25、C-50、SE(スルホエチル)-Sephadex C-25、C-50も発売されました。こちらの数字の前のCは陽イオン(cation)の頭文字です。これらの1950年代末から1960年代初頭にかけて開発されたSephadexベースのイオン交換担体は、重合させたデキストランの塊を粉砕してつくったSephadexを材料にしていたため、粒子が不均一で、使用前の準備に時間がかかるなどの問題がありましたが、1965年には、今日と同様のビーズ状のイオン交換用Sephadex担体が発売されました。

それから少し遅れて1968年にはQAE(四級化アミノエチル)-Sephadex、1970年にSP(スルホプロピル)-Sephadexも発売されました。

1972年にビョルリングが「スウェーデンにおける血漿分画の手法」というレビュー記事を書いていますが、この中でイオン交換クロマトグラフィー用担体として、DEAE-SephadexとCM-Sephadexを挙げています。ちなみに、DEAE-Sephadex、CM-Sephadex、QAE-Sephadex、SP-Sephadexは今日も販売が続いています

なお、セルロース溶液を有機溶媒中で懸濁してビーズ状のセルロース担体をつくることに成功したフランクフルト大のディーターマンの提案で、セルロースもSephacelという名前で製品化されています。まったくの余談ですが、ディーターマンは、球形のセルロースを"pearl-shaped cellulose(真珠型セルロース)"と呼んでいます。"ビーズ"よりも何やら高級感が漂う優雅な命名ではないでしょうか。

こうしてSephadexを中心にイオン交換クロマトグラフィー用担体の開発が進みましたが、やがて中心はアガロース(Sepharose)に移ってゆきました。アガロースの方がポアサイズが大きく、剛性も高いため、Sephadexよりもイオン交換クロマトグラフィー用担体に適していたためです。

もっと速度を

タンパク質を工業的に利用する場合はもちろん、タンパク質の基礎研究でも精製は短時間で済むに越したことはありません。しかし、イオン交換クロマトグラフィーで迅速に精製しようとしても、当初のイオン交換クロマトグラフィーでは思うように流速を上げられませんでした。大きな問題は2つあり、1つは材料の剛性の不足、もう1つはビーズの粒子径の不均一さでした。剛性が不足していると、ビーズが潰れて詰まってしまいますし、粒子のサイズが不均一だと、大きな粒子の隙間に小さな粒子が入り込み、これまた詰まってしまいます。

剛性不足の問題については、セルロースやSephadexからSepharoseや各種の合成ポリマーなどのより頑丈な材料に切り替えることで、だんだん解決されてゆきました。

一方、粒子径の不均一さに関しても、ノルウェーのトロンヘイム大学のユーゲルスタットが、非常に均一な単分散粒子を合成する系を開発し、10 µm以上の直径の均一な担体を合成できるようになって解決されました。

ウプサラ大学およびファルマシアでのタンパク質精製技術の開発に詳しいヤン・クリスター・ヤンソン教授(ウプサラ大学)によると、Mono担体のMonoは、上記の単分散(monodisperse)という言葉のmonoに由来しているのだそうです。

参考文献

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