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生化夜話 第35回:スキムミルクを最初に使ったのは誰? - ブロッキング剤

ブロッキング剤を調達中・・・

ウェスタンブロッティングではプローブの非特異的結合を抑えるために、ブロッキング処理を行うのが普通です。この処理を行うためのブロッキング剤としてしばしば使われるのがスキムミルク、つまり脱脂粉乳です。たいへん有名な実験マニュアルMolecular Cloningでも、スキムミルクがthe best and least expensiveと紹介されています。

さて、このスキムミルク、今日市販されているものはもちろん実験に使えるように品質管理はされているのでしょうが、それでもやはり脱脂粉乳には違いありません。ウェスタンブロッティングのメンブレンを牛乳に浸すなどという野蛮な方法を思いついたのは誰でしょう?

最初にウシありき

1970年代から1980年代はじめにかけて、核酸やタンパク質のブロッティング法が次々に開発されました。電気泳動とニトロセルロース膜への転写を基本とした手法が大流行し、その1つであるウェスタンブロッティングは抗体のスクリーニングや抗ペプチド抗体を使ったタンパク質の研究における主要な研究手法となりました。

ウェスタンブロッティング黎明期における実験上の難題は、抗原の濃度が低いか、あるいは抗体の活性が低いために、バンドとバックグラウンドの区別が困難であることが少なくない点でした。

バックグラウンドを下げるために、目的分子以外の分子を結合させプローブとメンブレンの非特異的結合を抑えるというブロッキングのアイディアは、ウェスタンブロッティングの最初の論文の時点ですでにありました。1979年のトービンの論文、1981年のバーネットの論文ともにBSA(Bovine Serum Albumin)を使って、ブロッキング処理を行っていました。これは筆者の推測ですが、核酸のブロッティングでデンハルト溶液をはじめとするブロッキング剤が使われていたことに着想を得たのではないでしょうか。

1983年のレビュー記事によると、この時期には、前述のBSAの他に、ゼラチン、ヘモグロビン、オボアルブミン、各種血清がブロッキング剤として使われていたようです。

ミルクのある研究生活

カリフォルニアにあるスクリップス病院研究所のジョンソンたちも、例に漏れずBSAとゼラチンをブロッキング剤に用いてウェスタンブロッティングに励んでいました。しかし、どちらもあまり満足できるものではなく、バックグラウンドの問題に悩んでいました。さらに、ある日ジョンソンは彼らの研究室でブロッキング剤として購入しているBSAの代金が年間で数千ドルにもなることに気付いてしまいました。

そこで、もっと効果的でしかも安価なブロッキング剤を自作することにしました。肝心なのは材料です。とにかく安価でタンパク質含量の高いものを、と探していて目に留まったのがスキムミルクでした。

スキムミルクをバッファーで溶かして使ってみたところ、HRPとRIのどちらでも検出でき、バックグラウンドも下がりました。

ジョンソンたちは5% W/Vのスキムミルクと、0.01%の消泡剤Antifoam Aを組み合わせたブロッキング剤を、BLOTTO(Bovine Lacto Transfer Technique Optimizer)と名付けて、それまで彼らが使っていたBSAおよびゼラチンとの比較を行い、その結果を1984年に報告しました。

(BLOTTOの製法を示した論文そのものは1984年で、スキムミルクの使いはじめに言及してある教科書でもこの年を指しています。しかし、その前年のジョンソンたちによる論文でもBLOTTOを使った旨の記載があるので、1983年には使い始めていたことになります。)

ゼラチンは彼らの実験条件ではあまり効果がなく、バンドの方がシグナルが弱くなってしまう場合すらありました。BSAはゼラチンよりはましでしたが、バックグラウンドは相変わらず高く、場合によっては擬陰性となるおそれもありました。

一方、BLOTTOを用いた場合はバックグラウンドを低く抑えることができ、バンドの検出が容易でした。さらに、BLOTTOはサザンブロッティング、ノーザンブロッティングでも、デンハルト液の代わりに使うことができたと報告しています。

しかも、BLOTTOの材料費はBSAの50~100分の1と格安で、大幅なコストダウンにもなりました。

筆者の余談:BLOTTOに含まれるAntifoam Aは食品添加物としても使われることがあります。さて、ジョンソンが使った材料の出所は・・・まさか研究所の調理室?

BLOTTOはなにしろ低コストでバックグラウンドを抑える効果も強かったので、多くの研究室で採用され、Methods in Molecular Biologyにも、イムノブロッティングでのスキムミルクの使用についてのプロトコールが掲載されました。そこにちょっと面白い注意点が載っていましたのでご紹介します。

抗菌剤を入れてあったとしてもBLOTTOは腐りやすく、腐ったBLOTTOを使うとかえってバックグラウンドが上がってしまうので、作り置きのBLOTTOを使用する前には必ずSmell Test(酸っぱい匂いがしないか!)をするべし、だそうです。

ブロッキングしたミルクを嘆いても仕方がない

一躍、イムノブロッティングの特効薬として脚光を浴びた感のあるスキムミルクですが、どんな試薬にも得手不得手があるように、万能ではありませんでした。

ノースカロライナ大学のスピノラとキャノンはブロッキング剤の違いがウェスタンブロッティングの結果にどのように影響するのかを調査しました。BSA、スキムミルク、Tween 20を比較したところ、どれも一長一短ということでした。BSAではバックグラウンドが高く検出が困難なバンドがあり、非イオン性界面活性剤を入れるとバックグラウンドは下がるものの、抗原までマスキングされてしまうのか、いくつかのバンドが消失しました。スキムミルクではバックグラウンドは大きく下がりますが、やはりいくつかのバンドが見あたりませんでした。Tween 20ではバンドが消えることはないものの試料によってはバンドの相対的な濃度が他のブロッキング剤の場合と変わってしまうことがありました。

こうした結果から、複数のブロッキング剤を試して結果を検討することをすすめています。

また、シドニーにあるロイヤル・ノースショア病院のバルド、トーヴィー、フォードも各種ブロッキング剤とその当時市販されていたニトロセルロースメンブレンを組み合わせて、その結果を比較しました。ブロッキングだけならスキムミルクが最良でしたが、ブロッキングの特異性の点ではTweenの方が良好でした。そのTweenにしても、メンブレンのメーカーにより結果が異なるという難点がありました。

どれを取っても完璧なものなどありませんが、その手軽さからスキムミルクは今日でももっともよく使われるブロッキング剤の1つとして人気があります。また、近年ではバックグラウンドの上昇につながりやすい成分を除去し特定の検出試薬に至適化された専用のブロッキング剤も市販されるようになり、条件検討に一役買っています。

各種ブロッキング剤の特徴については「[別冊] ウェスタンブロッティング 攻略ガイド トラブルシューティング 感度アップ編」の33~34ページに載っています。お持ちの方はそちらをご参照ください。持ちでない方は「[別冊] ウェスタンブロッティング 攻略ガイド トラブルシューティング 感度アップ編」のページからご請求ください。無料でお届けします。

参考文献

  • Towbin H., Staehelin T. and Gordon J., Electrophoretic transfer of proteins from polyacrylamide gels to nitrocellulose sheets: Procedure and some applications, Proceedings of the National Academy of Sciences USA, vol. 76, no. 9, 4350-4354 (1979)
  • Burnette W. N., "Western Blotting": Electrophoretic transfer of proteins from sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gels to unmodified nitrocellulose and radiographic detection with antibody and radioiodinated protein A, Analytical Biochemistry, vol. 112, no. 2, 195-203 (1981)
  • Johnson D. A. and Elder J. H., Antibody directed to determinants of a Moloney virus derived MCF GP70 recognizes a thymic differentiation antigen, Journal of Experimental Medicine, vol. 158, no. 5 1751-1756 (1983)
  • Johnson D. A., Gautsch J. W., Sportsman J. R. and Elder J. H., Improved technique utilizing nonfat dry milk for analysis of proteins and nucleic acids transferred to nitrocellulose, Gene Analysis Techniques, vol. 1, no. 1, 3-8 (1984)
  • Spinola S. M. and Cannon J. G., Different blocking agents cause variation in the immunologic detection of proteins transferred to nitrocellulose membranes, Journal of Immunological Methods, vol. 81, no. 1, 161-165 (1985)
  • Baldo B. A., Tovey E. R. and Ford S. A., Comparison of different blocking agents and nitrocellulose in the solid phase detection of proteins by labelled antisera and protein A, Journal of Biochemical and Biophysical Methods, vol. 12, no. 5-6, 271-279 (1986)
  • Jagus R. and Pollard J. W., Use of dried milk for immunoblotting, Methods in Molecular Biology, vol. 3, 403-408 (1988)

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