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生化夜話 第33回:観察から実用化まで40年 - Hisタグ

金属アフィニティー・・・

1948年、コバルト、アミノ酸の1つであるヒスチジンそして酸素の反応を調べていた研究者が、ヒスチジンおよびシステインが、亜鉛(Zn)や銅(Cu)と比較的安定な複合体を形成できることを、本題のコバルトとヒスチジンの反応とあわせて報告しました。アミノ酸と金属イオンの結合は、こうして第二次世界大戦終了後すぐの時期に観察されましたが、この現象が生化学研究の現場で活用されるまでには、長い年月を要することになります。

イオン交換ならぬ"リガンド"交換

1961年、シェルディベロップメント(シェル石油の研究部門)のヘルフェリッチが、それまで自分の研究室で分析と精製に使ってきた新しい手法を紹介しました。その手法はイオン交換と錯体化学の組合せで、Cu2+、Ni2+、Ag+、Co3+などの金属イオンを固定し、その金属イオンと目的の分子で複合体を形成させるものでした。

イオン交換では、イオン交換体に結合していたイオンと、試料中から取り込まれたイオンが置き換わりますが、ヘルフェリッチの手法では、金属イオンと複合体を形成していたリガンドが、置き換わります。この様子から、ヘルフェリッチは、イオン交換(Ion Exchange)にならってリガンド交換(Ligand Exchange)と呼ぶことを提案しました。

ヘルフェリッチは、シェルディベロップメントの研究者ですので、試すサンプルは当然あまり分子量の大きくない(タンパク質に比べれば、という意味で)有機化合物が主体でした。アンモニア、有機アミン、多価アルコール、アルケン、アセチレン誘導体などの分析や精製によく使っており、有機酸やアミノ酸でも使えたと報告しています。

リガンド交換の利点として、適切なイオンを選ぶことで目的分子との親和性を高めることができ、低濃度のリガンドの分析や精製も可能であること、それまで使われていたイオン交換や物理的吸着よりも特異性が高いこと、最適な金属イオンを幅広い元素から選べるので柔軟性が高いこと、そしてイオン交換同様にクロマトグラフィーカラムの使用に適しており、その際にはクロマトグラフィーの基本的な技法も応用できることを挙げています。

陽イオン交換体に含まれる金属イオンにリガンドが吸着するという現象そのものは、1954年に報告されており、複合体の安定性が異なることを利用した分離の例も1950年代末に現れてはいましたが、原理や反応の性質に関する考察はなく、1961年に発表したヘルフェリッチがリガンド交換の祖として広く知られるようになりました。その後、リガンド交換、中でもクロマトグラフィーカラムを使ったリガンド交換クロマトグラフィー(LEC)は、主に合成化学の研究者によって幅広く使われ、低分子の有機化合物をLECで分離・精製したという論文は1960年代から1970年代にかけて大変な勢いで増えてゆきました。

手法も素材も足場はイオン交換

イオン交換を基礎につくりあげた手法だからなのか、ヘルフェリッチの原法ではイオン交換体として普及していたAmberlite IRC-50を担体として使用しており、彼に続く多くの事例でも各種のイオン交換体が用いられました。Sephadexやワットマンのセルロース(CF11、P11)を使った例もありましたが、あまり広まらなかったようです。

大流行したIMAC

何となくIを小文字にしたくなりますが、もちろんここであつかうIMACは果物の名前を冠したメーカーのコンピューターではなくImmobilized Metal chelate Affinity Chromatography(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、長いので以下IMAC)です。基本原理は前述のLECそのもので、金属イオンとタンパク質の錯体形成を利用してタンパク質を分離する技術です。

1968年にアフィニティークロマトグラフィーが発表されてから、生物学的な親和性を利用してタンパク質を分離・精製しようという動きが急速に進展しました。その一環として金属イオンとタンパク質の親和性も分離に利用できるのではないかとポラートたちは考えました。1948年の報告で金属イオンと相互作用するアミノ酸があるのはわかっていましたし、アフィニティークロマトグラフィー用担体の開発の経験からSepharoseに分子を固定するのにも慣れていました。それほど大きな障害もなくSepharose 4BにZn2+とCu2+を固定した2種類の担体を調製し、ヒト血清中のタンパク質を分離しました。

金属イオンとタンパク質の相互作用を利用して精製する手法を最初に試したのはパデュー大学のエヴァーソンとパーカーで、キレート剤を固定した担体に金属タンパク質を吸着させました。ただ、彼らはその手法を一般化しようとは特にしなかったようです。エヴァーソンとパーカーは元々金属元素と結合して作用するタンパク質を分離しましたが、ポラートたちはもっと幅広いタンパク質全般に使える手法であることを示したのでした。その結果、今日の研究現場で使われているIMACの源流は1975年、ウプサラ大学のポラートたちの報告とされるようになりました。

1975年の報告の中で、分子の構造から考えると金属イオンとの相互作用で主要な役割を果たすのはイミダゾール基(ヒスチジン)、チオール基(システイン)、インドール基(トリプトファン)だろうと予言しました。この予言は正しかったのですが、システインはタンパク質の立体構造を支えるジスルフィド結合を形成していることが多く、トリプトファンは疎水性のアミノ酸であるため、ともにタンパク質の表面に露出していることは多くありません。そのため、ポラートが挙げた三種のアミノ酸の中では親水性でタンパク質表面に多いヒスチジンが、IMACの主な標的として使われるようになりました。

IMACは、さまざまな条件で使用可能であることや、タンパク質が変性しない穏やかな条件で溶出できることなどの使い勝手のよさから、1970年代の終わりから1980年代のはじめにかけて、日本を含む世界各国の多くの研究室で使われるようになりました。ただ、初期のIMACでは天然のタンパクや、その配列そのままの組換えタンパク質だったため、IMACで分離・精製できるかは、タンパク質の表面に露出しているヒスチジンの数や位置に依存していました。

タグより担体が先でした

ポラートたちはイミノ二酢酸を用いて金属イオンを保持していましたが、IMACの精製能力を向上させるために、金属イオンをしっかり保持し(=金属イオンの漏れが少ない)、かつ結合容量も大きい担体の開発が、いくつかの研究室で行われていました。

ロシュのホフーリたちはイミノ二酢酸の代わりにキレート剤としてよく使われているニトリロ三酢酸(nitrilotriacetic acid、NTA)でNi2+を保持する担体、Ni-NTAを開発しました。しかし、せっかくつくったNi-NTA担体を用いてタンパク質の精製をやってみたところ、良好な結果を示すタンパク質がある一方で、Cytochrome c、トリプシン、インターフェロンα-2aなど結合しないタンパク質もありました。どのタンパク質にもヒスチジンは含まれていましたので、ヒスチジンが含まれているかどうかだけが条件ではないことは明らかです。配列の異なるペプチドを材料に詳しく調べてみると、複数のヒスチジンが隣接していることが大事な条件であることがわかりました。

その翌年、1988年にホフーリたちはIMACの効率を改善する新しい手法を報告しました。その手法はというと、1977年にシティオブホープ研究所の板倉たちが発表した遺伝子融合技術を用いて、目的タンパク質のN末端またはC末端に連続したヒスチジンを含むペプチド(タグ)を付加するというものでした。このヒスチジンのタグ(His-tag)は大変便利で、組換えタンパク質精製のツールとして好評を博し、今日でも世界中の研究室で使われています。

[生化夜話作者のひとりごと] 1987年に発表した担体をまともに機能させるには連続したヒスチジンが欠かせず、天然のタンパク質にその配列があるとは限らないため、ないものはつくるしかない、とタグをつけることにした。1988年の論文にはそんなことは一言も書いてありませんが、2本の論文を読むと、そんな背景をついつい想像してしまいます。

ちなみに、タグをつけるというアイディアそのものはホフーリたちの前にも報告されていましたが、そのタグは単にヒスチジンの数を増やそうというもので、ホフーリたちの連続したヒスチジンほどの効果はなかったようです。

ヒスチジンと金属イオンの相互作用がはじめて観察された1948年は、米ソの対立が深まりベルリン封鎖がはじまった年でした。ホフーリのHis-tagの論文はそのちょうど40年後の1988年、いよいよ冷戦も終わろうかという年でした。現象の最初の観察から、実に一時代をまたいで、ヒスチジンは組換えタンパク質精製の主役になったのでした。

参考文献

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  • Davankov V. A. and Semechkin A. V., Ligand-exchange chromatography, Journal of Chromatography, vol. 141, 313-353 (1977)
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  • Gaberc-Porekar V. and Menart V., Perspectives of immobilized-metal affinity chromatography, Journal of Biochemical and Biophysical Methods, vol. 49, 335-360 (2001)
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